四国の山間部を車で走ると、よく目にする風景があります。ガソリンスタンドが閉まり、農機具屋が閉まり、近くの食堂が閉まり——「そこにあった暮らしの拠点」が一つずつ減っていく光景です。
背景には人口減少と高齢化があります。ただ、よく観察すると、同じ町でも残っている会社と消えていく会社に一定のパターンがあることが見えてきます。残っているのは、よく「老舗の大企業」というよりも、小さく複数の事業を一つの法人で抱えている会社が多いのです。
この記事では、みかもグループ(1971年創業・徳島県三好郡東みよし町)の実例をもとに、四国の中山間という地理条件のもとで「小規模多角化」がなぜ雇用を残す側に働くのか、整理していきます。
四国の山間部の経済圏は「車で30分」で完結する
四国はよく「四国4県」と一括りに語られますが、地形を見ると、瀬戸内海側・四国山地・南海側で全く違う土地です。その中でも徳島県西部、香川県南部、愛媛県東部、高知県北部の山間エリアには、共通した特徴があります。
- 主要な町どうしの距離が15〜30km、車で20〜40分
- その間に山が挟まり、生活圏が物理的に分断されている
- 町ごとに「給油・買物・食事・整備」がワンセットで完結している
東みよし町を例にとると、隣の三好市(井川・池田)まで車で15分、美馬市まで20分、香川県観音寺市まで山越えで40分。ここを通勤・通学・買物で行き来している人は、「自分の町+隣の町+もう一つ隣の町」、おおむね半径20km圏で暮らしの大半が完結しています。
この「車で30分の生活圏」が、四国中山間の経済単位です。都市部のように単一巨大商圏に依存できないぶん、その圏内で必要なサービスを「足元で」揃えられるかが、地域に会社が残るかどうかを左右します。
単一事業が衰退すると、雇用は隣町にも逃げる
仮にこの圏内で、ある会社がガソリンスタンドだけを営んでいるとします。元売りの広域再編、EV化、人口減少、いずれの局面でも、収益が一方向に揺れたら雇用調整に直結します。スタッフは町外へ通勤先を探すしかなくなり、町内の購買力が一段下がります。
四国の中山間で過去20年に消えた事業を見ると、共通点は「季節・燃料・流通の一つに大きく依存していた」ことです。スキー場、特定燃料の小売、単一車種の整備工場、観光バス1業態。需要が消えた瞬間、雇用が一括で消えました。
逆に、同じ町で残っている会社は、規模は小さくても「給油+整備+洗車」「米+野菜+直売所」「葬祭+仏具+介護」など、関連する仕事を束ねて持っているパターンが目立ちます。一つが揺れても、別の事業で雇用を維持しながら立て直せるからです。
みかもグループの「6事業」を地理で並べると意味が見える
みかもグループは現在、カーコーティングSOUP、中古車買取エムネット、ENEOS三加茂SS、みかも喫茶、みかも木履、みかもデジタル(DX事業)を東みよし町を起点に展開しています(レンタカーはカースタレンタカー西阿波みかも店として併設)。
これだけ並べると「業種がバラバラ」に見えますが、地図に置き直すと事情が変わります。同じ生活圏の中で「車・燃料・移動・休憩・記録・伝統」をひと続きの暮らしの線として束ねているのです。
同じ顧客が、同じ町で複数の役割で来店する
例えば、ENEOS三加茂SSで給油する人が、隣のみかも喫茶でランチを食べ、車検の合間にSOUPでコーティングの相談をし、買い替え時にエムネットで査定を受け、次の車が来るまでカースタでレンタカーを借り、贈り物にみかも木履の桐下駄を選ぶ——この一連が、車で30分の生活圏で完結します。
大都市なら、それぞれを別会社の別店舗で頼むほうが効率的かもしれません。しかし移動コストと信頼関係の蓄積が大きい四国の中山間では、同じ会社で続けることの摩擦の少なさが効きます。これは「囲い込み」ではなく、地理条件が生み出す自然な選択です。
事業のあいだに人を回せる構造
もう一つの効果は、雇用の側に出ます。SSで採用したスタッフが、繁忙期にはレンタカー受付に入り、冬の閑散期には喫茶のホールに入り、車検期はSOUPのフロントに入る。フルタイムで一つの仕事しかさせない前提だと、地方では人数を維持できません。一人が複数の現場を見ることで、雇用の総量が増え、町外への通勤に流れる必要が薄くなります。
みかもグループは現在、従業員21名(2026年時点)で6事業を回しています。単一事業の中小企業が同規模で残るためには、相当大きな商圏を必要としますが、東みよし町の生活圏のスケールでは「小さく複数」のほうが現実的です。
地理が変わらない以上、合理性も変わらない
四国の中山間の人口は今後も減少が続くと予想されています。しかし、生活圏の「車で30分」というスケールは地形が決めるものなので、人口が減っても変わりません。むしろ人口が減るほど、圏内のサービスを束ねて持っているかどうかが、町に会社が残るかどうかを決めます。
一つの町に複数の会社があるのと、一つの会社が複数の役割を持つのとでは、後者のほうが残りやすい局面が増える——これがこの数十年の四国中山間で起きている静かな構造変化です。みかもグループの形は、その地理条件への一つの答えです。
四国の他県の山間部でも、同じような形の地場企業が雇用と暮らしの拠点を残しています。地形が同じならば、解も近づく。多角化は「拡大戦略」ではなく、四国中山間の地理が要請する適応戦略として読み直すと、見え方が変わってきます。
まとめ|四国の山間で会社が残るための3点
- 暮らしの単位は「車で30分の生活圏」で固定されている
- 単一事業は一方向の需要変動に弱く、雇用ごと町外へ流れる
- 圏内のサービスを束ねて持つ会社が、雇用と暮らしを残しやすい
みかもグループは、東みよし町を拠点に車・燃料・食・伝統・DXを束ねる小さな多角化企業として、1971年から半世紀以上、地域の雇用を維持してきました。四国中山間の地理を前提にした事業設計の参考にしていただければと思います。
よくあるご質問(FAQ)
Q: 一つの会社で複数事業をやると、専門性が下がりませんか?
A: 都市部の競争を前提にすると下がる可能性があります。一方、四国中山間のように生活圏が小さい場所では「専門性の深さ」よりも「相談のしやすさ」と「移動の少なさ」のほうが顧客の効用に直結します。みかもグループでは事業ごとに専門スタッフを置き、相互に紹介する形で深さと束ねの両立を図っています。
Q: 多角化はリスク分散のためですか?
A: 結果としてリスク分散にもなりますが、出発点はそこではありません。「同じ生活圏の中で必要な機能を、足元に揃え続けるため」に各事業が増えていきました。地理条件への応答としての多角化です。
Q: 採用面でメリットはありますか?
A: 季節と時間帯で複数現場に配置できるので、地方では難しい「年間を通じて働ける枠」を作れます。これにより通勤距離の長い職場へ人材が流れにくくなり、町内雇用の維持につながっています。
Q: 他の四国の地場企業も同じ構造ですか?
A: 高知県の山間部、愛媛県南予、香川県西部などでも、同様に「小さく複数」を抱えて残っている会社が複数あります。地形が共通している以上、自然に近い形に収束していると考えられます。
Q: みかもグループに相談・取材したい場合は?
A: みかもグループ お問い合わせページからご連絡ください。事業ごとの取材・採用・連携のご相談に対応しています。

