四国の山を歩くと、植えられた杉と桧の林がどこまでも続いています。四国は古くから林業の盛んな地域で、四万十川流域、剣山系、石鎚山系、徳島県那賀町、高知県の嶺北など、品質の高い木材を生み出す山が点在しています。
一方で、林業の現場では「間伐材を誰がどう使うか」が長年の課題です。間伐とは、密植された林の中の一部の木を間引いて、残った木に光と養分を行き渡らせる作業。間引かれた木は、用途が見つからないと山に置いたままになります。
NPO法人はびりすとみかも木履が共同開発した「べんがら下駄」は、この四国の林業課題と、発達障害のある子どもへの発達支援を、ひとつのものづくりで結んだ取り組みです。2019年にはSDGs審査員特別賞を受賞しました。
この記事では、四国の杉桧林がなぜ子どもの「足育下駄」に向くのか、林業・足の発達・地域共同というそれぞれの視点から整理します。
四国の杉桧林——日本でも特殊な「人工林の歴史」
四国の杉桧の人工林は、戦後の拡大造林政策で大きく増えました。特に高知県は人工林率が日本トップクラス、徳島県・愛媛県の山間部も同様に高い数値です。当時、戦後復興・住宅建設のための木材を国内で大量供給するために、広葉樹林を伐採して杉桧を植えた歴史があります。
結果として、いま四国の山では、植林から60〜70年が経過した杉桧が成熟期を迎えています。本来であれば伐採・更新の最適期ですが、海外からの安価な木材輸入、国内住宅需要の縮小、林業従事者の高齢化が重なり、「木はあるが、引き出せていない」状況が長く続いています。
こうした林を健全に保つためには、間伐が欠かせません。けれど間伐で出る木は、太さも長さも形もばらつきがあり、大規模な建材としては使いにくい。個別の小さなものづくりに転用できる用途が、四国の山林を維持するための一つの鍵になっています。
子どもの「足育」と、桐・杉・桧の木目の関係
足育(あしいく)とは、子どもの足の発達を意識的に支える考え方です。乳幼児期の足は、骨と筋肉と神経が急速に組み上がる時期で、地面からの刺激の受け方が、土踏まずの形成、姿勢、歩き方の癖、ひいては全身の発達に影響するとされています。
足育の現場でよく語られるのが、「裸足に近い感覚で、適度な硬さの面に接すること」の重要性です。柔らかすぎる靴は、足の小さな筋肉を眠らせます。逆に硬すぎる靴は、地面の凹凸を遮断してしまいます。そのあいだに、子どもの足を起こすための適切な刺激のレンジがあります。
下駄は、この「適切な刺激」を提供する伝統的な履物です。木の硬さは、地面の凹凸を伝えつつ、衝撃を吸収する。鼻緒は、足指の握りを促し、足裏のアーチを動かす。素足で履くため、皮膚からの情報が遮断されません。
使う木材によって、硬さ・重さ・伝わり方が変わります。桐は軽くて柔らかい、杉は中程度、桧は硬めで滑らかな手触り。四国の杉桧は、子どもの体重に対して刺激が強すぎず弱すぎず、足育の道具として向いている素材です。
NPO法人はびりすとの共同開発の経緯
NPO法人はびりすは、徳島県美馬市を拠点に、発達障害のある子どもの療育と家族支援を続けてきた組織です。子どもたち一人ひとりの発達特性に向き合い、運動・感覚・コミュニケーションの3面から日常生活の力を育てる活動を行っています。
発達特性のある子どもたちの中には、足裏や指先の感覚が捉えにくい、あるいは逆に過敏で靴下や靴を嫌がるといった、感覚統合のかたよりを抱える子もいます。靴を履くことが日常の苦手や、姿勢の不安定さに繋がるケースも珍しくありません。
こうした子どもたちのために、「地面からの刺激を適度に伝える、感覚統合を支援する履物」として、はびりすとみかも木履が共同で開発したのが「べんがら下駄」です。
みかも木履は、徳島県東みよし町を拠点に、桐下駄を中心としたものづくりを続けてきた工房です。桐の木目の選び方、鼻緒の張り方、台のカーブの作り方。長年の経験で蓄積された下駄づくりの知見と、はびりすの療育現場での観察を重ねて、子どもの足に合うサイズ感と硬さに調整しました。
「べんがら」が持つ意味
べんがら(弁柄)は、酸化鉄を主成分とする赤褐色の塗料で、日本では古くから木造建築の保護塗装に使われてきました。耐候性が高く、毒性が低く、塗ったあとの色合いに深みがあります。
みかも木履のべんがら下駄に、この塗装を施しているのは、子どもが舐めても安全な仕上げを、伝統的な素材で実現するためです。化学的な合成塗料ではなく、酸化鉄という鉱物由来の自然な顔料で着色する。これは、「子どもが使うものだからこそ、素材を遡って選ぶ」という共同開発の姿勢の表れです。
結果として、四国の山の杉桧と、日本古来のべんがらと、子どもの発達支援が、ひとつの履物の中で出会いました。地域資源と伝統技術と社会課題が、特別な物語ではなく、自然な流れで重なった取り組みです。
2019年 SDGs審査員特別賞のあとに見えたこと
この共同開発は、2019年にSDGs(持続可能な開発目標)の文脈で評価され、審査員特別賞を受賞しました。受賞そのものよりも、受賞後に問い合わせをいただいた方々のお話のほうが、開発側にとって学びが大きかったというのが、はびりすとみかも木履の共通認識です。
- 「子どもが下駄を履きたがるようになった」という保護者の声
- 「療育の現場で姿勢が安定しやすくなった」という支援員の観察
- 「四国の林業課題に関心を持ってもらえた」という地元の反応
製品としての成功よりも、「下駄を介して、別々の世界の人たちが同じテーブルに着く」機会が生まれたこと。これが取り組みの長い意味です。
四国の木を、四国の子どもの足のために
四国の山には、いま、間伐期を迎えた杉桧が膨大に立っています。同時に、四国の中には、感覚統合に課題を抱える子どもたちと、その家族と、療育の現場があります。地理的に近い場所で起きている課題どうしが、ひとつのものづくりでつながる——べんがら下駄は、その小さな実例です。
みかも木履は、これからも桐下駄を中心としたものづくりを続けながら、四国の木と発達支援の重なる領域で、はびりすをはじめとする地域の支援団体と協力していきます。
みかも木履の桐下駄・べんがら下駄は、みかも木履 公式オンラインストアでご覧いただけます。グループ全体の案内はみかもグループ craft ページからどうぞ。
よくあるご質問(FAQ)
Q: 「べんがら下駄」は通常の桐下駄とどう違いますか?
A: 大きな違いは、子どもの足に合わせたサイズと木の硬さの調整、そしてべんがら(酸化鉄)による安全性に配慮した着色仕上げです。発達支援の現場での観察をもとに、鼻緒の張り具合や台のカーブも子ども向けに最適化しています。
Q: 四国の木を使うことのこだわりは?
A: 地域の山を健全に保つためには、間伐材を含めて木材が循環する必要があります。同じ四国の中で育った木を、同じ四国の中で使う形をできる範囲で広げたい、というのが取り組みの背景です。
Q: NPO法人はびりすの活動について知りたい場合は?
A: NPO法人はびりすは徳島県美馬市を拠点に、発達障害のある子どもの療育・家族支援を行っている団体です。活動内容の詳細は、はびりすの公式情報をご確認ください。
Q: 大人用のべんがら下駄もありますか?
A: みかも木履は桐下駄を中心に幅広いラインアップを展開しています。べんがら下駄のうち、大人向けに展開できるサイズや仕上げについては、みかも木履 公式オンラインストアまたはみかもグループ お問い合わせからご相談ください。
Q: SDGs審査員特別賞の正式な団体名・受賞内容は?
A: 詳細はみかも木履ブランドページでご紹介しています。受賞は2019年で、NPO法人はびりすとみかも木履の共同開発「べんがら下駄」が対象です。

